画像からくり第44回 お皿を用いた凹凸反転錯視(日本写真学会誌 第82巻第1号から)

2019/3/6
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写真や細密画の機能の一つとして,実物を目の前にしている様な体験ができることがあるのだが,いつも実物の様子が正しく伝わるとは限らない.私は机の上のミニ・スタジオで小物の写真を良く撮影するのだが,対象物の配置を工夫し,意図的な照明を行うことで,実物を見事に変身させる体験を度々している.この連載の第25回1)では,ひょっとこのお面の裏側が,手前に飛び出して見える撮影例を紹介した.今回は身近に売られているお皿を用い,凹凸反転の錯視を作り出す撮影結果を解説する.なお,取り上げるキャラクターや商品名,外観には各社の権利が存在することを予めお断りする.

日本写真学会誌 第82巻第1号(2019年2月)に掲載.
著者:桑山哲郎


Fig. 1 キャラクターの顔の皿 その1

 まずFig. 1をご覧いただきたい.人気が高い「ハローキティ」の顔のレリーフに見える.実はこれは,小皿を下側から照明して撮影した写真なのである.種明かしは次で行うとして,この魅力的な商品についての情報を報告する.顔の右下には©’76,’14 SANRIO Ⓛの表記がある.㈱サンリオの商品としてこのハローキティの顔がデザインされたのが1976年,小皿に合わせて調整が行われたのが2014年という事が,正面から見て分かる表示になっている.Ⓛはライセンスを表していて,発売元はスケーター㈱となっている.


Fig. 2 4種類の皿を並べた様子

 続いてFig. 2をご覧いただきたい.キャラクターの顔が大きく描かれたお皿が大小合わせて4種類並んでいる.お皿なので食卓の上に並べているが,ハローキティの顔は左右90mm,大きな皿は左右240mm もあり,一番小さな皿は55mm である.これらの皿を下側から適当な角度で照明すると,まるで顔が手前に飛び出している様な写真が撮影できる.


Fig. 3 キャラクターの顔の皿 その2

 Fig. 3は,ポケモンキャラクターの「ピカチュウ」の顔が描かれている「ピカチュウフェイス スプーントレイ」という商品である.同じ顔が描かれているレンゲとセットで発売されているが,今回レンゲは品切れでトレイだけが手に入った.発売元は㈱金正陶器と表記されている.手前の縁が作り出す影が,顎から下の様に見える角度から照明するのが,撮影のコツである,また額の反射に見える位置に,光源の正反射像を調整するのも演出ポイントである.


Fig. 4 キャラクターの顔の皿 その3

 Fig. 4は,「リラックマ アクセサリートレイ」という商品である. Fig. 2で分かる様にわずかな凹みが付けられている商品であるが, 下縁にはっきりとした影が生じる照明することで,手前に飛び出した顔に見える. 本体に©SAN-X という表記があるが, サンエックス㈱の商品である.


Fig. 5 キャラクターの顔の皿 その4

 最後にFig. 5は,大型で深いカレー皿であるが,これも見事に手前に飛び出して見える.㈱ダスキンが運営するミスタードーナツのキャラクター「ポン・デ・ライオン」の顔が大きく描かれている.©MISDO 13 という表記があるが,2013 年に発売されたカレー皿ということが分かった.今回の撮影例では,顔と明暗の組み合わせで凸面に見せかけているため,学会誌を面内回転し上下逆にしてみると,凹んでいる皿であることがたちまち見破れる.お試しいただきたい.
これら4 点の皿に共通していることは,魅力的なキャラクターの顔が大きく描かれていることである.「凹面顔錯視」あるいは“Hollow Face Illusion” と現在では呼ばれているが2)筆者がこの錯視についての解説に出会ったのは1972 年のことで3)それ以来興味を持ち続けている.


Fig. 6 5種類の皿を並べた様子

 凹凸反転の錯視が起こりそうな商品を探していたところ,ある100円ショップで一度に5種類もの小皿に出会った(Fig.6).ネコの掌,ご飯茶碗,自動車の図柄である.期待を込めて写真を撮影したのだが,意外な結果に終わった.


Fig. 7 ネコの掌の図柄の皿

 Fig. 7は,ネコの掌の図柄の小皿である.下側から照明することで肉球が手前に飛び出して見える.可愛らしい印象で,成功例である.


Fig. 8 茶碗の図柄の皿2枚

 ところが,残りの小皿では,照明角度をいろいろ工夫しても,あまり良い効果が得られなかった.一例をFig. 8に示す.凸面に見える場合もあるが,いかにも不自然で目を動かすと元の小皿に戻ってしまう.自動車の図柄の皿2 点でも同様で,Fig.6の見えとあまり変化が無かった.今回,元の皿に対して凹凸が反転して見えるような写真が撮影できるという報告を行った.皿の全面に顔が描かれているときには,うまく凸面に見える結果を4点示した.特にこの様な意図が無くても,写真だけを見ている人が実物とは違う凹凸を見出してしまうことがある.これは写真の「画像からくり」としての魅力でありまた注意点でもある.
参考文献
1)桑山哲郎,口絵連載 画像からくり第25 回「奥行き反転物体を手作りする」,日本写真学会誌,第77巻2号(2014)51.
2)鏡惟史,コーヒーブレイク「逆遠近法と奥行き反転錯視」,画像電子学会誌,第40巻1号(2011)168.
3)グレゴリー:著,金子隆芳:訳,「インテリジェント・アイ」,みすず書房(1972).